2014年10月17日金曜日

続・15、進藤一考「戀螢歩む螢となりにけり」


進藤一考「戀螢歩む螢となりにけり」

進藤一考 1929〈昭4〉8.1~1999 〈平11〉3.17)の自信作5句は以下通り。

戀螢歩む螢となりにけり          「人」平成元年9月号
一茎の花統べ水引草のすべて        「人」〃 2年1月号 
鸚鵡貝うしほに乗れり新糖期           〃  4月号 
かげろふの自縛ひたすら琉球弧          〃  4月号
三月に其角忌ありと砂塵かな           〃  6月号  
一句鑑賞者は吉村一志。その一文の中ほどから「戀螢なんて存在するものか、と疑ってあれこれ詮索する人に、戀螢を納得できるよう説明することは、螢は渡り鳥と同じように季節を選んで渡る、渡り虫であることをいくら言葉を費やして説明しても信じてもらえないのと、どこか似ているのだ。/蛍は渡るのだ。日本を離れるため、何十万という螢の大群が集まり、闇に息をひそめ、刻を見計らっている螢谷があるのだ。その螢の大群が一斉に光を放ちとび立つ様は、龍が燃えて天にかけ昇るかに見えると云う。(中略) 終結部の、けりは軽重深浅さまざまに使われているが、この句は断定の重みを強く読み手に押しつけて快い。とそんな小賢しい理屈などどうでもよいのだ。平淡な除法で一気に戀の機微に参入させながら濃艶に堕落しなかったこの佳句を限りなく感得するだけで全て足りるのだ」とある。

進藤一考(しんどう・いっこう)は本名・一孝(かずたか)。1958年、「河」創刊に参加し、角川源義に師事、75年源義没後、「河」主宰となるが、79年「人」を創刊主宰した。「俳句情念論」を主張した。その「人」誌は現在、佐藤麻績が主宰を継承している。一考の句集に『斧のごとく』『黄檗山』『真紅の椅子』。代表句には「単日や斧のごとくに噴煙は」「夢殿のあたりの春の砂嵐」などがある。